宇宙コッペパン

チャカアイコンの宣教師

歌詞の一人称・二人称で分析する関ジャニ∞楽曲〜無駄に縦長なExcel表を添えて〜

当記事は、第1回関ジャニプレゼン学会企画に参加させていただいた際の研究に加筆修正したものです。


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※以後1万文字を超える長文が続きますが、「暇な楽曲ヲタが好きなアイドルの曲の歌詞の一人称と二人称を数えてExcelにまとめた」以上の出来事は特に起こりません。

4-5「混合型」、4-7「その他1対1型」では、『クラゲ』『Street Blues』『罪と夏』『夏の恋人』『DO NA I』『Dye D?』などの歌詞を、一人称・二人称の表記という視点から考察しました。新しい視点での歌詞考察となっておりますので、ぜひご覧ください。

 

はじめに

私は、ジャニーズとしての関ジャニ∞、特に彼らの楽曲の特異性として、「日本語の比重が大きい」ことが挙げられると考える。関ジャニ∞にもそれなりに英語タイトルの楽曲はあるが、事務所内の他のグループに比べれば日本語の比重が高いと言えるのではないだろうか。

この研究では、日本語学的観点から関ジャニ∞を読み解いていこうと思う。対象としたのは、彼らの楽曲の歌詞だ。日本語の大きな特徴に、人称代名詞の種類の豊富さがある。そこからなんとかして楽曲における関ジャニ∞像や関ジャニ∞そのものの特色を導いていこうと考えた。私はいわゆる事務所内での「掛け持ち」はしておらず、他のグループについては非常に疎い。それゆえ何かと間違いはあると思うが、温かい目で見ていただきたい。

そこで登場するのが最初の画像である。この表は、関ジャニ∞の楽曲の歌詞に出てくる一人称・二人称の数を把握すべく、表計算ソフト・Excelを用いて作成したものだ。*1完全に趣味で作っただけなので作りが甘く、縦長の表を無理やり1枚の画像に収めたため画質が死ぬほど悪いのだが、多少のアラはご愛嬌。以降はこの表をベースに研究を進めていく。

 

 

研究方法

後述の条件に当てはまる210曲の歌詞中の一人称・二人称を、以下のように調査した。

  1. CDに付属している歌詞カードまたはインターネット上の歌詞サイトを見ながら、一人称と二人称にあたる語を目視で数えた。文脈の中での使われ方を調べるため、ツールなどは用いなかった。
  2. 表記ごとに集計し、表計算ソフトExcelで表にした。例えば、「僕」と「ぼく」は読みが同じだが表記が異なるため、別の単語と捉えた。
  3. 出来上がった表を参考に、日本語詞の特徴および関ジャニ∞の楽曲性、そして関ジャニ∞というグループ像についての考察をした。

 

対象としたのは、以下の条件に当てはまる曲である。

  • 関ジャニ∞名義によってリリースされた曲(エイトレンジャー名義も含めた。『ここに』については、執筆時点で歌詞が先行公開されているが研究の対象外とした)
  • 全員で歌唱に携わっている曲(横山・村上以外の5人のソロパートにより構成されている『Your WURLITZER』については、アルバム『JUKE BOX』のユニット曲集であるDisk2ではなく全員で歌唱した曲が収録されているDisk1の曲目であることや、DVD化された過去のコンサートでは7人での演奏だったことなどを考慮し、全員での曲としてカウントした)
  • 音源化された曲(remixや再録にあたる曲は歌詞が同じなので、重複しないよう除いた)

 

一人称・二人称としてカウントしたのは、以下の条件に当てはまる単語である。

  • 歌詞カードに記載されているもの(コーラスやセリフなども記載があれば含めた)
  • 日本語であるもの(『Dye D?』と『Eightopop!!!!!!!』については、歌詞カードに載っている日本語訳が公式であるとし、その中の一人称・二人称を数えた)
  • 独立して一人称単数または二人称単数としての意味を持つもの(例えば『ひびき』には「愛しきヒト」という歌詞があり、これは歌詞内の「君」と同じ人物を表していると考えられる。しかしこの語は単独では二人称を指さないため数えなかった)

 

 

 

結果1・概論

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まず見ていただきたいのが、それぞれの一人称を含む曲数をグラフにしたこちらの画像だ。なお、複数の一人称が出てくるものもすべてカウントしているため、総数は調査した曲数と一致していない。楽曲中に登場する一人称は3分の2近くが「僕」であることが読み取れる。次いで多いのが「俺」という結果になった。

 

 

 

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こちらは、同様に二人称を含む曲数をグラフにしたものだ。3分の2強を「君」が占めており、「キミ」「きみ(その他に含めた)」も合わせると4分の3以上となることがわかる。「あなた」や「お前」といった二人称も比較的多く見られた。

 

 

 

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また、それぞれの楽曲の一人称・二人称の組み合わせを9つに分類し、その比率をグラフにした。分類の方法は以下の通りだ。

 

  • 僕/君型(一人称が「僕」、二人称が「君」)
  • 僕/×型(一人称が「僕」、二人称なし)
  • 俺/×型(一人称が「俺」、二人称なし)
  • ×/君型(一人称なし、二人称が「君」)
  • 混合型(一人称と二人称が揃っており、どちらかもしくは両方の表記が2種類以上)
  • ×/×型(一人称、二人称ともになし)
  • その他1対1型(一人称と二人称の表記が1種類ずつ、「僕/君型」以外)
  • その他一人称型(「僕/×型」「俺/×型」以外、二人称なし)
  • その他二人称型(「×/君型」以外、一人称なし)

 

一人称と二人称の組み合わせは、3割強が「僕/君型」であるという結果となった。「その他1対1型」で一番多いのは「俺/君(7曲)」、その次が「僕/キミ(5曲)」となっている。注目すべきは、「俺」という一人称の登場曲数のわりに「俺/×型」が多いことである。「僕」は「俺」の3倍以上の曲で使われているのだが、「僕/×型」よりも「俺/×型」のほうが数が多い。この点に関しては、次の「結果2」の項で考察していきたい。

 

 

 

結果2・個別研究

ここからはもう少し掘り下げて分析する。まずは一人称・二人称が多く使われている曲をランク付けした。

 

 

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こちらが一人称の登場回数のランキングだ。ほぼ全編が英語詞で構成されている『Dye D?』の和訳部分が1位という結果となった。2位以降は1位と大きな差が開いており、英語に比べ日本語は主語の省略が多いという特徴が顕著に現れた。また、『Dye D?』『夏の恋人』『Snow White』『コーヒーブレイク』『All is well』と、メンバーが作詞した曲が多くランクインしている。

 

 

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こちらは二人称が使われた回数のランキングである。またもや『Dye D?』が1位、『夏の恋人』が2位という結果になった。『CANDY MY LOVE byキャンジャニ∞』も引き続きランクインしている。この3曲は、一人称・二人称の数のみならず使われている語そのものにも特徴があるため、この後詳しく分析する。

 

 

次に、結果1の3つ目のグラフで用いた9種類の各型について、具体的な曲名を挙げながら考察していく。

 

僕/君型

調査した総曲数の約3分の1を占めた組み合わせである。調査は行っていないが、おそらく他の男性ボーカルのJ-POPでも最も多く使われているのではないだろうか。さまざまなジャンルの曲に見られるものの、最近は減少傾向にあるようだ。2017年は『応答セヨ』、2016年は『background』の各1曲のみ。2015年は『Can’t U see?』、『ナイナイアイラブユー』の2曲だけで、この頃から減っていると考えられる。個性的な語の使い方をする曲が増えたことは、幅広い音楽に挑戦する姿勢の表れとも読み取れる。一方で、『大阪ロマネスク』『ローリング・コースター』『ブリュレ』『I to U』といった、リリースから何年も経った今でもファンやメンバーに愛される曲がこの型に多いのも事実だ。普遍性を持っているのも「僕/君型」の特徴と言える。

 

僕/×型

二人称が存在しない、いわば自分語りの詞であると言えよう。それでいて押し付けがましくない印象を与えるのは、「僕」という語の持つ穏やかさや共感性(女性ボーカルの曲でも「僕」はたびたび使われる)によるものだと思われる。『旅人』『Heavenly Psycho』『8年者』『Do you agree?』『Traffic』など、その時々の関ジャニ∞そのものにも重なるような曲が多く含まれている。「僕/×型」は、淡々とした自分語りに徹しながらもどこか聞き手にシンパシーを感じさせる効果があるようだ。

 

俺/×型

前述の通り、「俺」が使われている曲数のわりに多いのがこの「俺/×型」である。私はその理由として、「俺」という語の持つ男らしく力強いイメージが、歌詞のストーリーの中に二人称(=相手)を必要としないパワーを持っていることが挙げられると考察した。具体的な曲名を見てみると、『地元の王様』『ゴリゴリ』『モンじゃい・ビート』『噂のオトコマエイト!』『えげつない』という、見事なパワープレー野郎系ソング(※褒めてます)ばかりのラインナップだ。我が道を行く泥臭い男性像が反映された楽曲によく見られる型だとわかる。

 

×/君型

「僕/君型」に次いで多かったのが、この「×/君型」だ。一人称がない、つまり相手のことを中心に据えた曲の集まりだと言える。この型に分類されるラブソングは、『冬恋』『スペアキー』『WASABI』といった未練に満ちたものと、『愛でした。』『CloveR』『Winter Love Song』などのひたむきな両思いソングに二分されている。『Hi&high』『へそ曲がり』『Never Say Never』など、「君(≒聞き手)」に寄り添いながら背中を押してくれるような応援ソングも多く見られた。他の型に比べると、曲のテーマと型との相関がやや弱いように思われる。

 

混合型

一人称や二人称、あるいはその両方が複数種類用いられている、考察しがいのある型がこの「混合型」である。複数の表記がなされているということはそれぞれに違いがあるわけだが、その違いが生じる原因は3パターンあると考えた。

 

  • 発話者が違うタイプ

歌詞中のストーリー内で、違う人物が一人称あるいは二人称にあたる語を発しているために表記が異なるパターン。『青春のすべて』『TAKOYAKI in my heart』『三十路少年』など。例えば『青春のすべて』には、

「あなたはそのままでいてね」と冬が終わる日に君は言った

という歌詞があるが、この「あなた」は「君」側から「僕」に向けての呼称である。

 

  • 作詞者が違うタイプ

複数人が作詞した曲が「混合型」に含まれているケースが存在した。例としては、『ミセテクレ』『オモイダマ』『元気が出るSONG』が挙げられる。

 

『ミセテクレ』

ラップ詞は安田章大の作詞だが、他の「僕」「君」が使われている箇所とは異なり、この部分にのみ「ボク」「キミ」が登場する。

 

『オモイダマ』

全国の高校生から詞を募ったという旨が発売当初からアナウンスされてきた。作詞した人物と該当箇所との対応が明らかになっていないため暫定的な結論ではあるが、バラバラの一人称・二人称が出てくる理由はそれぞれ作詞者が違うからではないかと思われる。

 

『元気が出るSONG』

メンバーが各自のパートの詞を書いた楽曲だ。ほぼ全編が「僕」で統一されているのだが、一箇所だけ「ボク」が登場する。この部分である。

思い出の欠片を集めて夜を明かそう

くだらないことでもいいよ

ボクらにだけ解ればいい

丸山さん…………………………………………(トゥンク)

 

  • 意図的なタイプ

以上2つを除いたものをここに分類した。具体的な曲名を挙げ分析していく。

 

『クラゲ』 (僕/君・あなた)

「あなた」はもともと、遠く離れた場所や時間を示す語だったという。それが江戸時代に「あちらの人」のことも示すようになったそうだ。「あなた」は「君」よりも遠くの存在を表すという観点からこの曲の歌詞を見てみよう。

君が誰を見ていたのかを 本当は僕は知っているよ

グランドを走る彼の姿 きらめく瞳の奥の彼方

あなたが空に浮かぶ雲なら 

空を見上げる僕はクラゲのようだね

『クラゲ』のこれらの歌詞を比較すると、「君」は「僕」とおそらくは同じ学校に通う想い人であり、実際に目で見ている相手を指しているのだと考えられる。いっぽう「あなた」は、「僕」が頭の中で思い浮かべているときの「君」のことだと思われる。「あなた」という二人称によって、意中の相手とは「君」と呼べる間柄でありながらも「僕」の手には届かない、甘酸っぱいもどかしさが表現されているのだろう。『Black of Night』でも同様の人称代名詞が用いられている。

 

『Masterpiece』 『Street Blues』 (僕・俺/君)

僕・俺/君型は、こちらの2曲と『罪と夏』『奇跡の人』の計4曲だ。この2曲には共通点があったためまとめて考察し、その後『罪と夏』を対比して分析する。

冴えないfaceにsay goodbye 今宵僕と踊ればケセラセラ

Are you ready? ここから俺らだけの世界を oh oh …

これらは『Masterpiece』の「僕」「君」を含む部分を抜き出したものだ。『Street Blues』の歌詞も同様に見ていこう。

愛の魔法で 裸のままの君をさらけ出して

そして僕の肩にそっと寄りかかればいいから

甘いセリフと甘い吐息で君を酔わせて

呆れるほどに俺だけを好きにさせてもいいよね?

どちらの曲でも、主人公は「僕」と「君」を使い分けて「君」へアプローチしている。「俺」で強気な思いを見せグイグイと引っ張りながらも、直接的な声掛けには優しげな「僕」を使っていることが読み取れる。この楽曲の色っぽさは、これらの一人称を主人公が意図的に使い分けているところに由来していると考察できる。

 

『罪と夏』 (僕・俺/君)

上の2曲とは異なり、一人称の違いによって焦りを表現していると思われるのがこの『罪と夏』だ。

真夏の俺らは罪・罪・罪なのさ!

サマーガール 君が今選ぶなら

「そりゃ僕だぜ?」・・とか無理だしな

この男性の本当の気持ちはきっと後者なのだろう。自らを「俺」と呼び虚勢を張りながらも、どうにか「君」に声をかけたいと悪戦苦闘する「僕」の余裕のなさが垣間見える。短い夏のひとときに揺れ動く主人公の心を、2つの一人称が見事に表している。

 

『フローズンマルガリータ 『コーヒーブレイク』 (俺/君・お前)

俺/君・お前型の曲は、偶然にもタイトルが飲み物被りしたこの2曲である。まずは『フローズンマルガリータ』から分析しよう。

Friday night 派手なメイクお前に夢中さ

Mi amore… 君はMagico

パンチのある歌い出しには「お前」が、サビで「Mi amore」を繰り返したあとには「君」が登場する。サビ部分では、他の曲の日本語詞にも頻繁に出てくる「君」の使用により、曲のテーマであるラテンを意識した「Mi amore(イタリア語)」や「Magico(スペイン語)」という語が際立っている。曲としての聴かせどころによって巧みに使い分けがなされていることが伺える。

次は『コーヒーブレイク』の歌詞を見てみよう。

いつか いつか 君と過ごせたら

僕は 僕は 何か変わるかな

こんな日々を過ごす僕たちはいつからか大人になったのかな?

いつの間にか…お前なしでは…

………………。

 

It’s 気まずいマジック…………

 

 

『夏の恋人』 (僕・俺/君・あなた・お前)

『Dye D?』に次いで一人称・二人称の数が2位となったこの『夏の恋人』には、なんと5種類の人称代名詞が登場する。

僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕があげるよ

いきなり「僕」7連発で一人称の個数ランキング7位タイにまで躍り出たかと思うと、

君がいなきゃ僕なんて

AメロからBメロにかけては「僕」「君」が登場し、

お前を

(ただ夢中で愛して)

お前に

(ただ夢のなかで捧げて)

せつないの?

(その瞳に俺だけうつして)

サビでは「俺」「お前」という呼び方に変化している。サビで相手に呼びかけ、それをコーラスが追っかける形となっており、いかにも『CANDY MY LOVE byキャンジャニ∞』へのアンサーソングらしい構成だ。

勇気なら僕があげるよ

どうやら、相手本人への直接的なアプローチには「僕」「君」という語が使われているらしい。サビの「夢のなか」でだけ「俺」「お前」が用いられているのは、いざ目の前にすると「君」としか呼べない相手への強がりだろうか。

あなたに触れたら夏の日差しに溶けて

消えた。

丸山さん…………………………………………(トゥンク)

 

 

×/×型

一人称も二人称も出てこない、日本語特有の型と言えるのがこの「×/×型」だ。この型の詞は、主語や目的語をあえて示さないことが最大のポイントであろう。はっきりラブソングと呼べそうなのは『Baby moonlight』くらいで、『急☆上☆show!!』『ナントカナルサ』『Sweet Parade』など、不特定多数の相手を励ます温かい応援ソングが多くを占めている。『Baby moonlight』『ふわふわポムポム』といった楽曲のミステリアスな魅力は、この型であることにも起因していると言えそうだ。『Fight for the Eight』『Tokyoholic』と、主人公が自らの過去をかえりみるような楽曲もある。「自分」や「相手」をわかりやすくは描かない、詩的なタイプであると考えられる。

 

その他1対1型

「僕/君型」に入らない、一人称と二人称が1対1で対応する曲について考察する。

 

Great Escape大脱走〜』 『Eightopop!!!!!!!』 『DO NA I』 (俺/君)

いずれも聞き手を自分の世界に引っ張り込むような快活さのある楽曲だ。

無理に 個性 白くして

虚しい 淋しい 俺だけか

髪を 切って いる時に

感じた 旅を しようって閃き

それは 君が ダララッタッター

外に 開く ファンファーレ

Great Escape大脱走〜』では、以上の2か所で人称代名詞が登場する。

Just keep going ’cause our life is gonna be the best! best! best!
Just keep going ’cause our life is gonna be the high!
(ただ先に進め、だって俺たちの人生は最高になるからさ!)
(ただ先に進め、だって俺たちの人生はアガってくからさ!)

君もすでにEighter!!!

君がノりゃさらに Party Time なぅ。

『Eightopop!!!!!!!』では、サビ前、サビ、間奏前(和訳部分)で、印象的に人称代名詞が使われている。

君を楽しませるのが 俺たちの楽しみ Woo
待ちに待ったウィークエンド! Move Your Body!

こちらが『DO NA I』のサビ直前の歌詞だ。3曲すべてに共通するのが、「この現実から抜け出そう、パーティーでもして楽しもう」という主人公のスタンスである。カジュアルな人称代名詞がふっと肩の荷を下ろせるような雰囲気を作り出しているように感じられる。

 

 

『マイナス100度の恋』 『Sorry Sorry Love』 (俺/君)

先ほどの楽曲と型こそ同じだが、どちらも雰囲気をガラリと変えた未練がましい失恋ソングである。この2曲の共通点として考えられるのが、主人公の身勝手さ、そしてそれに対する内省をテーマとしていることだ。

外は雪 思い出さないのかい? あの日のコト
君は俺に未練はないのかい? ラララ…

君の中で俺が消える瞬間を感じたよ
忙しさをタテにしてた しみったれたやつだね oh

どちらも、歌い出しやCメロといった目立つタイミングで「君」の中に「俺」の存在を求めていたと自供するかのような歌詞が置かれている。「俺」という一人称に主人公のわがままさが表れているように思われる。なお、『イッツマイソウル』『キミへのキャロル』もこの型である。

 

『どんなに離れてたって傍にいるから』 『キング オブ 男!』 (俺/お前)

主人公の泥臭さと古風な男性性を強く打ち出しているこの2曲では、「俺」「お前」という人称代名詞が使用されている。

いつかきっと かっさらいに行く
もっとお前に ふさわしい俺になって

『どんなに離れてたって傍にいるから』では、「俺」と「お前」が含まれたサビを何度もリフレインしている。

夢を掴もうぜ仲間で
お前のためなら死んでもいい

アウトローな俺たちはキングオブ男!

“本気”と書いて”マジ”と呼ぶ男!!

『キング オブ 男!』のサビには「お前」が、そして最後の締めくくりには「俺」が使われている。ややぞんざいでぶっきらぼうな語だが、その使用によって主人公の男らしさがアピールされていると読み取れる。

 

無責任ヒーロー (オイラ/君)

関ジャニ∞の売り上げ1位を誇るシングル曲であり、発売から10年近く経った今でもその記録は破られていない。その秘密はどこにあるのか、人称代名詞の使い方に焦点を当てて分析したい。

オイラ伝説の無責任ヒーロー

夢は無限大の無責任ヒーロー

歌い出しでいきなり「オイラ」という語が登場する。この一人称が使用されているのは、関ジャニ∞の楽曲の中ではこの『無責任ヒーロー』のみで、他のJ-POPでもなかなかお目にかかれない、インパクトのあるフレーズだ。真っ先にこの言葉を用い、さらにタイトルである「無責任ヒーロー」を繰り返すことで、その斬新さを聞き手に印象づけていることが伺える。

君の人生は誰のもの??

1番も2番も、サビの直前の歌詞はこの言葉で統一されている。短いが、「君(≒聞き手)」にとって思わずハッとさせられる問いかけだ。ちなみに、この時期のもう一つの代表曲である『ズッコケ男道』は「×/×型」だ。インパクトある人称代名詞をうまく使った『無責任ヒーロー』と、あえて人称代名詞を使わずに共感性を追求した『ズッコケ男道』。初期の関ジャニ∞のパブリックイメージは、奇しくも好対照なこの2曲によって彩られていたと言えよう。

 

『Dye D?』 (ワタシ/きみ)

一人称・二人称ともに登場回数が1位だった楽曲だ。そのほとんどが英語詞の和訳部分であり、日本語と英語の違いを実感させられる結果となった。人称代名詞に着目したとき、この曲のもう一つのポイントとなるのが「ワタシ」という表記だ。この語が表しているのは「人外感」ではないかと考えられる。

You don’t even know how to love me.

(きみにはわからない。ワタシの愛し方が。)

Cause you’ve got know who on earth I am.

(だってきみはわかってるんだ。ワタシが一体何者かを。)

この曲のテーマが「禁断の恋」「狂恋」であろうということは、歌詞から比較的容易に読み取れる。しかし主人公がドラキュラだということは多くのファンにとって予想外だったのではなかろうか。それがはっきりと示されたのがライブツアーでの映像や衣装だったわけであるが、男性の一人称としては特殊な「ワタシ」を、しかもカタカナで表記することで伏線を張っていたと言えそうだ。

 

 

『CANDY MY LOVE by キャンジャニ∞』 (わたし/あなた)

この楽曲のポイントはなんと言っても「キャンジャニ∞のデビューシングル」であるわけだが、それを意識した人称代名詞が用いられている。

あなたに

(わたしのためにならなんでもしてくれる)

逢えない

(わたしに微笑みをあなただけがくれる)

この項の最初でも示したように、『CANDY MY LOVE byキャンジャニ∞』には一人称も二人称もかなり多く使用されている。「わたし」の多用によって主人公の女性性を強調しているのだろう。女性目線の楽曲『あなたへ』でも類似の表現(私/あなた)が用いられている。

 

その他一人称型

『レスキューレスキュー』『前向きスクリーム!』の「我」など、特殊な一人称が目立った。二人称を使わずに恋愛模様を歌い上げている『悲しい恋』や、「足りないピース」という形容で二人称にあたる代名詞の不在を補っている『パズル』などもここに分類される。なお、『好きやねん、大阪。*2『∞レンジャー』には、複数の一人称が使用されている。

 

その他二人称型

『NOROSHI』『今』『S.E.V.E.N転び E.I.G.H.T起き』『生きろ』と、アルバム『ジャム』の収録曲が4曲含まれており、近年増加傾向にあるようだ。『大阪レイニーブルース』『青春ノスタルジー』といった哀愁漂う恋愛ソングや、『がむしゃら行進曲』『生きろ』などのメッセージ性の強い応援ソングが多い。なお、『ありがとう。』『がむしゃら行進曲』『NOROSHI』*3『今』は、複数の二人称が登場する。

 

以上が9つの型に対する分析である。もちろんそれぞれで取り上げた各型のイメージには当てはまらないものもあり、これらはあくまで私の考察だ。とはいえ、人称代名詞の使い方と楽曲から受ける印象にはある程度の相関が認められると言っても良いだろう。

 

おわりに

ここまで人称代名詞によって楽曲を読み解くという新しい試みを行ってきたわけだが、なかなか興味深いデータが得られたように思う。人称代名詞を曲や場面によって変える理由はここで考察した以外にもたくさんあるはずだが、曲を読み解く一つの手がかりとなりそうだ。なお、他のアーティストとの比較ができなかった点や、曲や人称代名詞の印象を自分のイメージのみに頼ってしまった点については、今後の課題としていきたい。

今後の展望としては、今回の研究で除外したソロ・ユニット曲を調査しメンバーごとの楽曲傾向を比較する、メンバー作詞曲を読み解く、7人体制と6人体制での楽曲の変化を分析するなど、さらなる研究を予定している。

 

 

 

参考文献

*1:はてなブログにはExcelをコピーして貼り付けることも可能なのだが、あまりに縦長すぎてすべてをコピーできなかった

*2:混合型の「発話者が違うタイプ」にあたる

*3:混合型の「発話者が違うタイプ」にあたる